そのままの君が好き〜その恋の行方〜
この日も、省を出たのは10時をとっくに過ぎていた。今日は早い方だな、そんなことを感じてしまう自分が怖い。


3月も春分の日を過ぎ、急速に春への歩みを速めている。卒業シーズンもそろそろ終わりを迎え、別れから出会いの時期へと変わろうとしている。


この日の昼休み、私は沖田くんに連絡を入れた。今度の土曜日で都合はどうかと聞く私に、彼は快諾してくれた。場所と時間を打合せ、電話を切ろうとすると


『今夜は、前の会社の後輩達が、呑みに誘ってくれててさ。なんか急にモテちゃって・・・じゃ、土曜日に。』


そう明るく言っていた沖田くん。後輩って三嶋さんのことなのかな・・・私の胸の中に苦いものが走る。


彼女に責められて、何の言葉も返せなかった自分。そして何より、間の抜けた頃に、ノコノコと会いに来た私に


『わざわざ会いに来てくれた君の誠意は受け取った。だから、もうこれで全て終わりにしよう。』


と冷たく言って、去って行った彼の後ろ姿が忘れられない。それが当たり前の反応で仕方がない、そう諦めてた私をもう1度揺さぶってくれたのは、由夏だった。


『このままで本当にいいの?』


その言葉にハッとした。もう恋愛なんてしたくない、まして沖田くんにそんな思いを向けるなんて絶対に許されるはずもない。懸命に自分にそう言い聞かせていた私の奇麗事が、その時、吹き飛んだ。


そんな時に聞こえて来た、彼の再就職決定のニュ-ス。私は思わず、彼に連絡してしまっていた。


会いたい、会って話したいことがある。何を今更、そう冷たくあしらわれることを覚悟して、そう言った私に、彼は驚くくらい簡単にOKしてくれた。


そして、今日。約束の時間と場所が決まったあと、私は高校以来、何事においても、相談し合い、報告し合い、励まし合って来た2人の親友にメールをした。


『沖田くんと、今度の土曜日に会う約束をしました。その資格があるとかないとか、もうそんなことは考えずに、自分勝手なのは、百も承知で、もう1回、彼にぶつかってみます。』


こう昼間に送ったメ-ルの返信が来ていた。由夏は


『そうこなくっちゃ。とにかく悔いなきように、応援してるよ!』


と短い激励の言葉。一方の悠は


『やっと決心したんだね。このままじゃ、加奈の為にも、沖田くんの為にもよくないと思ってたから、まずはホッとしたよ。ところで、話してなかったけど、実は唯ちゃんが帰って来てる。沖田くんと最近再会したみたい。唯ちゃんが沖田くんにとって、どんな存在かは、加奈もよく知っていると思う。私にとって、加奈は大切な親友。だけど唯ちゃんも可愛い義妹、本当はどっちも傷付いて欲しくない。だけど、これは叶わぬこと。沖田くんが2人の内のどちらを選ぶのかはわからない。ひょっとしたら、どちらも選ばない可能性だってある。申し訳ないけど、私は加奈だけを応援することは出来ない。だけど、2人・・・ううん3人がお互いの心を正直にぶつけ合って、お互いが納得できる結論を出せるように祈ってる。頑張ってね。』


そっか唯さん、帰って来てるんだ。悠のメ-ルの様子では、あの彼氏とは別れて、やっぱり沖田くんに再告白したってことだね。ますますハ-ドルが高くなっちゃったけど・・・もう絶対に逃げないから。
< 162 / 177 >

この作品をシェア

pagetop