そのままの君が好き〜その恋の行方〜
仕事初めの日、大臣からの年頭の訓示を欠伸をかみ殺しながら聞いていた私は、部署に戻ると、さっそく仕事に入る。


かつては女性は晴れ着で出勤というのが、仕事初めの不文律だったらしいが、今、そんなことを言ったら、それこそ大騒ぎになるだろう。


月末から始まる通常国会に、我が厚労省としても、何本かの法案を提出することになっている。私の局に関わる法案もあり、私はその法案作りの一端を年末から担っている。


省内の手続きを終えて、与党の部会の審査を経て、国会に法案として提出するという流れを考えると、スケジュールの余裕はたいしてない。


これはまた、しばらく残業の日々になることは、間違いないだろう。


法案作りというのは、各自が分担して行い、それを上席に上げて、1本の法案に織り上げて行くというスタイル。


作業は1人で黙々と行うことになり、没頭しているうちに、昼休憩のチャイムが、聞こえてきて、驚いた。


同僚達と食堂に降りて行くと


「桜井さん。」


と声が掛かった。振り向くと近藤さんだ。


「近藤さん、明けましておめでとうございます。」


「明けましておめでとう、今年もよろしくね。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


「どう、順調?」


「はい、なんとか。」


相変わらず、私の状況を気にしてくれてる近藤さんは、私の返事にホッとしたように頷いた。


「そうか。課長が褒めてたよ、桜井くんは変わった。半年研修が終わって、帰って来てからは、別人のように頼もしくなったって。」


「本当ですか?」


「ああ。元々、課長は君のこと、買ってたんだ。だからこそ、君に厳しかったんだから。」


そう言ってもらえると、やっぱり嬉しい。私は素直に顔をほころばせた。
 

「いい顔だ。その調子で、今年も頑張れよな。」


「はい、ありがとうございます。」


「俺は明日から、また出張なんだよ。」


「えっ、新年早々ですか?」


近藤さんの新しい部署は、とにかく出張が多いところのようだ。私が帰任の挨拶に行った時も、出張で不在だった。


「ああ。1回、子供に顔、忘れられたわけじゃないんだろうけど、帰って抱き上げようと思ったら、泣かれたのには、参ったよ。まぁ、この年末年始で充分顔売っといたから、もう大丈夫だろうけどな。」


そう言うと、近藤さんは笑った。
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