そのままの君が好き〜その恋の行方〜
その後、何件か回った取引先では、同じようなことは起こらなかったけど、社に戻ると、金沢さんが興奮気味に俺のことを話して、ウチの課はすっかりそれで大盛り上がりとなった。


「やっぱりそうだったんだ。名前聞いた時から、そうなんじゃないかと思ってたんだ。」


なんて言う先輩もいた。もっとも、俺の経歴を知っていた課長は、自分が野球に疎いこともあって


「へぇ、そんなに凄いことなんだ。」


とキョトンとした感じで言ってたけど。


それ以降も、取引先を順次回って行くうちに、同じようなことが、何回かあった。そして、それは仕事にマイナスになることは、決してなかった。


高校を卒業して、もう5年以上経つ。俺は高校野球、甲子園というものの影響の大きさを改めて実感させられていると共に、野球をやっていてよかったと思っている。


そしてあっという間の1年。気が付けば今日も1日が終わろうとして、我々は帰社の途に着いていた。


「早ぇもんだな。」


「えっ?」


「お前とこうやって、現場回り始めたの、ついこの間のような気がするけど、あっと言う間に1年たって、もうすぐお前も先輩だ。」


「そうですね。」


午後は選手交代で、ハンドルを握っている金沢さんがそんなことを言い出した。


「お前とのコンビも、もうすぐ解消。今度はお前が新人を仕込む番だ。」


「信じられないです。」


「確かにな。でもそうやって俺達はバトンを繋いでいくんだ。高校野球だって、同じだろ、きっと。」


そうかもしれないな、金沢さんの言葉を聞きながら、そう思った俺が、フッと外を見ると、車は官庁街を走っていた。


(こんな所を走ってたのか。彼女、元気にしてるかな?あの子のことだから、パリパリ仕事こなして、順調に「出来る官僚」の道をまっしぐらなんだろうな。)


久しぶりに、あの子のことを思い出して、俺はボンヤリそんなことを考えていた。
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