そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「アイツ、浮気してたんだ。会社の同僚の子と。私が責めたら、『お前だって、俺のこと、もう見てないじゃないか』って、開き直られて、それで終わった。」


「・・・。」


「バレてたんだね。総一郎にどんどん惹かれて行く私の気持ち・・・。私には彼氏がいる、総一郎には、他に好きな人がいる、そう必死に自分に言い聞かせて来たんだけど、な。」


泣き笑いの顔で、そんなことを言われて、俺は言葉を失う。


「あなたのことが、ずっと好きだった。でもあなたには、桜井さんの方がお似合いだと思ったから諦めてた。ううん、諦めようとしてた。」


「・・・。」


「だけど、総一郎はずっと煮え切らない。なんで?桜井さんの何が不足なの?前の彼女って、そんなに素晴らしい人だったの?」


「三嶋・・・。」


「前に言ってたよね。桜井さんは俺の手の届くような存在じゃないって。頭が良くて、スポーツが出来て、エリート官僚で・・・。だったら私はどう?私はただの、そこらへんにいる普通の女の子だから、引け目なんて感じることないでしょ?」


「・・・。」


「私に興味がないだけかもしれないけど、結局あなたは傷付くのが怖いだけ。だから、誰にもキチンと向き合えない。ただ臆病なだけじゃない。」


後輩に言われたい放題言われて、何も言い返せない俺。


「ゴメンね。生意気なことばかり言っちゃった。もしムカついたんなら、引っ叩いてくれてもいいよ。」


「いや・・・。」


そう答えるのが、精一杯。


「そんな意気地なしで、優柔不断の総一郎を私は好きになりました。だから、私はもう遠慮しない。桜井さんに黙って、譲るつもりなんて、もうないから。」


「三嶋・・・。」


「だから、もう名前でしか呼ばない、敬語なんか絶対に使わないから。もう私とあなたは、仕事上の先輩、後輩じゃないんだから。離れ離れになってもアタックし続けるから。」


「・・・。」


「もし、それが迷惑だと思うんなら、鬱陶しいと思うんなら、桜井さんに真剣に向き合いなよ。別に桜井さんを応援するつもりはないけど、今のままじゃ、彼女が可哀相。そんな彼女に勝てても、あんまり嬉しくないし。」


ここで三嶋は笑顔を見せた。


「じゃ、今日はこれで帰ります。お世話になりました、沖田先輩。」


そう言って一礼した三嶋は


「またね、総一郎。」


と言い残して、俺にクルリと背を向けて歩き出した。送って行くことも忘れて、俺はその後ろ姿をやや茫然としながら、見送っていた。
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