そのままの君が好き〜その恋の行方〜
結局、家に帰り着いた時には、もう深夜2時近くになっていた。


過去に業務で、このくらいの時間の帰宅になってしまったことが、なかったわけではなく、ホテルを出た時点で、一応連絡を入れたこともあってか、親が心配して、起きてるようなことはなかったのは、正直助かった。


濡れた服、明らかに泣きはらした顔、説明にかなり困っただろうから。


タクシーの中でも、涙が止まらず、運転手に心配されてしまったが、帰宅して、飛び込むように入った浴室で、シャワーを浴びながら、私の涙は止まることはなかった。


この涙はなんなのだろう。24年間、機会がないままに来た「初めて」を一気に失ったショックはある。そんなことが、自分の身に起ころうとは、今朝起きた時には、夢想だにしなかったのだから。


でも正直言って、無理矢理にされたわけではない。キスはともかく、その後のことは、いくらでも引き返す道はあったはずなのだ。でも、私は結局拒まなかった。


和樹さんという相手が嫌だったわけでもない。和樹さんとじゃなければ、絶対にこんなことにはなってない。私は和樹さんにずっと憧れていた。そして、和樹さんも私を想ってくれていた。本当なら、心弾む時間を過ごしていてもいいはずだ。なのに・・・。


これから私に、私達に待ち受けている困難。


「私達は愛し合っています。」


だけでは、何も解決はしない。幸せになるには、ただでさえハードルが高い「不倫」と言う名の恋愛。そこに「相手のパートナーの失踪」という現実がのしかかる。


和樹さん夫婦の婚姻関係は、完全に破綻している。にも関わらず、和樹さんは、そう簡単には自由になれないという理不尽。


この恐ろしく難易度の高い連立方程式を解くという困難に立ち向かう覚悟もあやふやのままに、私は状況に流されてしまった。


数カ月前の由夏のあまりにも的確なアドバイスが、今更ながらに胸に迫り、私の心は後悔に震える。


そして、もう1つ、私の心を苦しめ、涙を溢れさせているのは、沖田くんという存在だった。
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