残念少女は今ドキ王子に興味ありません

じゅうに

 キーンコーンカーンコーン―――

 昔ながらの鐘が鳴り響く。
 その音を聞きながら、少し埃っぽい図書館の空気の中でため息をついた。

『いつもこの時間なのか?』

 思い返してみれば、そう聞かれたのは1回じゃなかった。
 確認してたのかな?わざわざ?
 ご苦労様だな…ホントに。

 終礼の後、図書館に来て本を開いたけど、どうにも集中出来ない。
 仕方なく、本を閉じた。




 小四の冬、放課後を持て余して、でもそれを知られたくなくて、学校の図書室に逃げ込んだ。
 そこでオススメ!とポップが付けられていたのが、“中目黒少年探偵メモ”だった。
 そのポップはPTAのボランティアさんが作っていたから、もしかしたらレイちゃんと同じく、学生時代に藤井ひそか先生の本を読んでいた人だったのかもしれない。

 ―――恋と友情と美少年!

 確かそんな謳い文句だったと思う。
 美少年って(笑)―――と言うのが、最初手に取った時の感想だった。
 だって“美少年”て、どんなの?
 って、思うのが普通だと思う。
 3次元(リアルな世界)に、ましてや小学生だ。
 整った顔立ちと書いてあっても、じゃあどんなのがそれに当て嵌まるのかなんてわかるわけがない。
 でも、読んでいるうちにそんな事はどうでもよくなった。

 出てくる男の子達は、ことある毎に主人公の女の子を“女の子”として扱った。
 彼等は小学生のクセにやけにオトナぶっていて、女の子をバカにはしなかったし、出来ない事を責めないけど、求めもしないかった。
 冷たいコは足手纏いになるからついてくるなと突き放し、優しいコはそれでもと追い縋る主人公に、優しく頭を撫でて言うことを聞かせようとした。
 だから、女の子と一緒になって怒った。
 そうじゃないのにって。
 だから、物語の終盤、主人公の気付きを基点に事件が解決した時。

『スゴいな、お前がいなかったら解決しなかった。』

 胸が熱くなった。
 気が付いたら涙が零れてた。
 欲しかったものがそこにあったから。
 手に入らなかったものがそこにあったから。

 そして“それ”が、手に入ることはこの先もきっと無いんだろうと、その時私は気が付いたのだった。

 だって、これは2次元(フィクション)だから。



 本をカバンに仕舞って立ち上がる。
 ほんのり陰ってきた日差しの中を歩いて学校を出た。

 成陵に知り合いが居ないからわからないけど、テストなんていいとこ3日ぐらいだ。
 選手権は秋からでも、練習とか試合とかで忙しいんだろうから、きっと、もう会う事も無いはず。

 気分を変えようと、歩きながらプレイヤーを出して操作した。
 こういう時は、元気のいい曲がいいと思うんだけど、80年代のアイドルは、基本的にラブソングばかり歌ってるんだよね。
 誰に向かって言ってるのかわからないようなメッセージソングではなく、万葉集のように“ただ、思いを述べる”だけ。

 呼び出したのは、出会いはミステリー~♪と歌う声。

 まだ見ぬ人に恋をする、なんて、おかしいよね。
 出会った瞬間、懐かしいカンジがする、とか。
 既視感(デジャヴ)って言うのは、脳の情報処理のバグなんじゃなかったっけ?

 この歌は確か映画の主題歌で、レイちゃん曰く、『内容は忘れたけど、今じゃ見れたもんじゃないぐらい、チープなアイドル映画』だったらしい。
 歌詞から察するに、主人公は宇宙から来た男の子にでも恋をしたんだろうか?
 “彼”のように、綺麗な―――?
 思い出して笑った。
 あの顔は確かに、ある意味宇宙人的ではあったかもしれない。
 リコに頼んで、そう言うSF的な漫画でも描いて貰おう。
 そうしたら、笑い話にして終わり。

 なんて思いながら、もう少しで駅に着こうかという所だった。

「“シズル”ッ―――」

 声と同時に腕を摑まれる。
 驚いて振り向いた先にあった顔を見て、大きく目を見開いた。

「さっきから何遍も呼んでんのに、無視すんなよっっ」

 真っ赤になって怒った顔。

 短く刈り上げた髪に灼けた肌。
 少しつり気味の大きな目に、太めの眉。
 愛嬌があって、いつも笑っていた顔はあの日、イヤそうに背けられていた。

「―――…大、地?」

 その声は呟くように、小さかった。
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