残念少女は今ドキ王子に興味ありません

じゅうさん

 きっかけは幼稚園で参加した、“エスコートキッズ”だった。

 エスコートキッズと言うのは、サッカーの試合の時、出場選手と入場時に手を繋いでピッチに入る子供達の事で、地元のプロサッカーチームのそれに、通っていた幼稚園が年長組の行事として参加したのだ。

 間近で見た広いピッチに、見上げるほど大きな選手達。
 でも、繋いでいた手は温かくて、笑顔も優しくて。
 試合も、皆で夢中になって応援した。

 その後から、幼稚園では外遊びでボール追っかけて駆け回るようになり、小学校になると直ぐ、サッカーチームに入るに至ったのだ。

 割と背が高くて、まあまあ足も速かったと思う。
 だから、最初の内は、男子と一緒くたになって楽しんでた。
 何しろ子供だから、ポジションなんてほとんど意味なくて、キーパー以外は皆揃ってボール追っかけちゃって、それでコーチに良く怒られてたなぁ…。

 でも、4年生にもなるとそういう訳にもいかなくなってきた。
 体格や体力的なものかクラブでは、1~3年生と4~5年生でチーム分けをしていた。
 コーチの指導も4年生からは変わってきて、ただの球蹴りでは済まなくなってきて。
 そして、その頃になると、低学年の時には何人かいた女の子はどんどん辞めていき、残っていたのは、私1人になっていた。

 ずっとやってたから、他の女子よりは体力あったと思う。
 でも、“天賦の才”なんてものは持ってなかった、から。

『―――どうやったら、そんな上手にリフティング出来るの?』

 そう聞いたのは、誰にだったっけ―――?



「何だよ、ちゃんと覚えてんじゃねぇか。」

 ちょっと拗ねたような顔をしている。
 コイツ、ホントに成長してないな…身長も、せいぜい私よりちょっと高い?ぐらい。
 最初の衝撃が過ぎてみると、意外に頭は冷静になった。

 大地―――佐々野大地。
 小学校の同級生で、同じサッカークラブのチームメイトだ。
 あの頃は小柄で私よりも小さくて、でもドリブルはめっちゃ得意だったから、とにかくガムシャラにゴールに突っ込んでいくヤツだった。まあ、ドリブラーで小柄な選手は多いから問題ないけど。
 チームのムードメーカーで、いつも元気に飛び跳ねてるイメージだったそのまんまの大地は、それでも、ちょっと困った様に掴んでいた腕を放して、空いた手をズボンのポケットに突っ込んだ。

「なかなか通らねぇから、見逃したのかと思ったよ。“シノ”が間違いないっつーから来たけど…」
「…“シノ”?」
「“シノ”だよ、篠崎悠斗。あれ?お前知ってんじゃねえの?」
「知らないよ。ていうか、何の用?」
「何のって…何だよ、会いにきちゃいけないのかよ…」

 大地の言葉には答えずに、黙ってその顔を見つめる。―――いつものように
 大地が居心地悪そうに顔を背けて舌打ちした。

「…何だよ。…“アイス・メイデン”ってホントかよ。カンジ悪(わり)いな!」

 吐き捨てるように言ったその言葉に、驚いた。
 大地はこっちを見て、意地悪気な顔になる。

「お前もアレかよ、シノには愛想良くしたんだろ?“イケメン”だもんなぁ!」

 イケメン―――?
 そのキーワードに肩がピクリと跳ねた。
 昨日の笑顔が脳裏を掠める。

「くっだらねー。見た目変えたって、無駄だぞ?アイツは昔のお前知ってんだからな?ちょっと位キレーんなったからって「何やってんだ、お前は」」

 後ろからパシッと大地の頭が叩かれる。
 視線を上げた先にいた“彼”と目が合うと、形の良い眉が微かに下がった。
 叩かれた大地が、「イッテー!!」と大げさに叫んでいる。

「なにすんだよっ」
「アホなことやってるからだろ?謝りたいって言ったのは誰だよ?わざわざ2時間もドラッグストアから見てたくせに、他に言うこと無いのかよ?」
「そっ、だっっ」

 大地が頭を押さえながら、顔を真っ赤にしてこっちを見る。
 “彼”が小さくため息をついた。

「悪いな。コイツずっと、小学校からアンタのこと引き摺ってるらしくて」
「ちっ、違っっ」
「違わねぇだろ?スゴい勢いで飛び出して「だから違うっっつーのっっ!!!」」

 大地が大声で叫びながら、こっちを指差した。

「俺じゃねぇっ!こっちだよっっ!! 小四ん時、バレンタインで手作りしてきてっ、それ受け取んなかったら、クラブ辞めちまって、それで―――」

 そこまで叫んだところで大地が口を噤んだ。

 私の、顔を見て、大地が息を飲む。
 私の“口角が上がった”のを見て。

「―――バカじゃないの?」
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