残念少女は今ドキ王子に興味ありません

じゅうよん

 自分の名前が呼ばれたのだ、と。
 気が付くまでにちょっと時間がかかったと思う。

 5,6年生中心のAチーム。
 当然ながら、4年生を中心にざわめきが広がっていった。

「まあ、女の子も入れないとねぇ…」

 そう言う声を聞いたのは帰り支度の最中だったと思う。
 納得がいかないとでも、誰かが親に訴えたんだろう。
 そしてそれを宥めようとした親が言ったんだろう。
 5年生にも6年生にも、女子はいなかったから、だからだろうと。

 高みを目指すようなチームじゃない。
 コーチだって、ほぼボランティアみたいなもんだ。
 男の子も女の子も同じ部費を取るのだから―――と、公平を期した結果なのかと気が付いて、それでちょっと悔しくなった。

 贔屓みたいなもんじゃん!

 そう思ったのは、当の本人だけじゃなかったのだ。




 言葉に詰まって硬直した大地に、もう一度微笑みかける。

 バカじゃないの?
 そんな理由で辞める訳ないじゃん?
 これでも、好きだったんだからね?

「言いたいことはそれだけ?」

 畳みかけるように聞いても、動かない。
 肩を竦めて、背中を向けた。



『えー、結構楽しみにしてたのに~』

 バレンタイン前日の練習後だった。
 ん!と差し出された手の平に首を傾げた。
 明日は練習が無いから、“去年までだったら”、渡すタイミングだっただろうけど。

『無いよ。“ひな”じゃないんだから。』
『え?!マジでか?』

 3年生でやめた“ひな”。
 実は大地の事が好きで、それで毎年作ってたチョコレート。
 1人にだけあげると、受け取って貰えないかもしれないし。
 自分の名前だけで渡すのは恥ずかしいから、と。
 私と2人から、と言っていたのをこの時初めて知った。

『シズルは作れねぇの?』
『…作れなくはない、けど…』
『じゃあ、ちょうだい。』

 無邪気に言われて呆れた。
 手作りだって、タダじゃないんだけど?って。
 それでも作ったのは、何処か引け目を感じていたからだったのかもしれない。
 Aチームに選ばれてから、ちょっとだけ、4年生男子達と距離を感じる様になってたから、仲直りするのに良いかも…なんて思ったのが、大きな間違いだったのだ。

『バレンタインなんて、チョコレート会社の陰謀よね。』

 手伝ってくれた、レイちゃんが言ってた。
 外国だと、男の方からプレゼント贈ったりするものなんだと。

『昔は女の子から言うのがハシタナイっていう考えがあったから何だろうけど、今はねぇ…肉食女子とか言われる時代になったんだから、もっと何か別のやり方あっても良いのに…』

 バターを溶かしながらブツブツ呟いてたのを、もっと良く聞いておけば良かった。
 全員揃ってる所が良いだろうと差し出したそれを見て、大地が目を大きく見開いた、その瞬間だった。
 周りに居た全員が、大きな声で笑い出したのは。

『受ける~っっ、マジで作ってきた!』
『一応、女子ですってか?!』
『大地~、お前が言い出したんだから、責任持って全部食えよ!』

 囃し立てられた大地が真っ赤になって叫んだ。

『何でだよっっ!! 俺1人で全部とかっ、罰ゲームじゃねぇんだからっっ!!』
『でも作ってくる方に賭けたの、大地だけじゃん?』

 その言葉に、大地がチラッとこっちを見て、徐にプイッと顔を背ける。

『誰も賭けないんじゃ、“賭け”にならないっ言(つ)ったじゃん!』
『そーだけどさー!!』

 言いながらも、ずっと、アイツらは“嗤って”いた。
 騒ぎに気付いたコーチがやってきて、拳固を食らわせるまで。
 そして、お母さん方が必死で謝るのを、どこか遠くで聞いていた。

 チームを辞めると告げた時、コーチは眉を下げて「残念だな」と言ってくれたけど。
 でも、本音は。

 厄介事が無くなったって、思われたんじゃないかな、と。
 密かに思った。

 なのに、何だアレ。
 チョコ受け取って貰えなかったんじゃない!
 渡さなかったんだっっ―――!!

 心の中で叫びながら、駅の構内を鼻息荒く(気持ち的に)歩いた。実際に鼻の穴が開いていたかも知れない。
 カバンのポケットからパスケースを出して改札をくぐり、いつものホームへ向かおうと顔を上げた、そこに。

 見覚えのある、茶髪が。
 もの凄ーくイヤな顔で笑って―――いや、嗤っていた。
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