残念少女は今ドキ王子に興味ありません

にじゅう

 ええ、なんで?
 呆気に取られていると、リコが肩を竦めた。

「心配してるんだよ。それで無くても、ヘンなあだ名ついたりとかしてたじゃん?」
「それにしたって…」
「いやさ、実際、ホントにこの“彼”知らない人なん?ってぐらいの密着度だよね?嫌じゃなかったの?」
「そ、れは…」

 自分でも不思議だとは思う。
 知ってるのかも知れないけど覚えは無い。
 でも、近さを不愉快だと思わなかったのは確かだ。
 黙り込んだ私に、リコがため息をついた。

「ま、とりあえず、この“彼”の事はいいよ、ひとまず“害”は無いでしょ。問題はこっち。」

 ―――ガイ?

 思わず首を傾げると、リコがスマートフォンをタップしながら、ちらっとこっちを見た。

「あの“あだ名”ね?ユウキの彼氏からの情報なんだよ。」
「シロ君?」
「そう、なんか、シロ君が友達から聞いた話とかでね、“外苑付近で話題になってるセーラー服”がいるらしいんだけど、ユウキの事じゃないよね?って聞かれたんだって。」

 それによると、このところ、一部の男子高校生の間で、外苑と言われている大きな公園付近に出没するセーラー服の女の子の事が話題になっているのだという。
 出没―――なんて珍獣扱い?って気がするけど。

「うちの生徒で制服のままあの辺うろついてるのって、そうはいないよね~。そもそも、市内でセーラー服はうちしかないし、まあ目立つっちゃあ目立つかな?」

 言いながらリコが苦笑した。
 まあね、実際帰り道であまり見ないもん。
 駅も、ユウキが朝余裕ある時に使ってるぐらい?

 私が使ってるのは、“外苑前”という駅だ。
 でも大体の生徒は“外苑前”の隣、“下坂手”という駅で降車している。直線距離だと、“外苑前”の方が近いのだけど、学校前のバス停に来るバスの路線が、“下坂手”経由だからだ。
 だから、“外苑前”からは歩くしかないんだけど、これが運動不足解消にはちょうど良い位の距離なんだよね。
 色んな裏道見つけて楽しんだり、公園でまったり本読んだり、コンビニも種類が豊富だったりと寄り道し放題なんだよ?
 歩くしかないでしょ?

「いやいや、朝から30分も歩こうとか、普通思わないから。」
「えー、そんなにはかからないよ。20…「いや、基準おかしいから、アンタ足速過ぎだから」」

 むう…。
 そうは言っても、ちんたらと10分歩いた位じゃ運動したとはいえなくない?
 効果を出す為にはある程度スピードも必要だし、ウォーキングで脂肪が燃焼を始めるのは確か、15分を過ぎてからのハズ。

「うん、とりあえず今その話はいいから、戻すね。」

 サクッとぶった切ったリコが、スマートフォンを差し出してきた。

「何コレ?」
「“掲示板”アプリだよ。」
「掲示板?」
「うん。もともとパソでは昔っからあったらしいんだけど、不特定多数の人と、匿名で交流出来るシステムなんだよ。」
「不特定多数と匿名で…それって大丈夫なの?」
「んー、まあ自己責任なとこはあるかもね。趣味とか共通の話題に関して、意見交換したりして盛り上がったりとかするみたいなんだけど…」

 言いながら、リコの指が画面をスクロールしていく。
 その先にあったものを見て、目を見開いた。

『www“氷の処女”を探してみるwww』

 顔を上げると、リコが真面目な顔で頷いた。

「性別とか年齢とか住んでる地域とか入れて、興味を引きそうなモノを検索するようになってるから、女子高生(私達)が検索しても、たぶんこのスレは表示されないと思う。昨日話を聞いたシロ君が、このアプリ使って調べてくれたみたい。で、こっちのが元々のネタ。」

 “こっちから来てます→”と書かれた文字をタップすると、他のスレッドに飛ぶ。
 そのリンク先のタイトルは、

『“黒蜜きなこ”の彼女を探しています』

「覚え、ある?」

 うん、あるよ。その話したもんね…
 何となく遠い目になってしまった。
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