残念少女は今ドキ王子に興味ありません

Other than ②

 ―――シズル、オマエの事女だと思ってたってさwww



 完全に見失ったと分かったとこで送った。
 何かくっそって気分だったし。

 最後に会ったのは、小学校の卒業式。
 3年経って、アイツはスゲー変わって、でも中身全然変わってなかった。
 頭突きとか、するか?フツー。
 ねぇよ、まじで。

 アイツにはしねぇんだろうな…そう思ったら、何か。
 くっそ!!って。
 頭わしゃわしゃしても治まらない。
 動画ん中で、アイツと見つめあってた。
 何だよ、それ。何でなんだよ?
 ぐしゃり、とシャツの胸元を掴んだ。

 何で、だよ―――






 自分がいわゆる“カワイイ系”だっていう自覚はあった。

 チビの頃から、やたらと頭を撫でられたり、ぎゅーっとされたり、頬ずりされたりし続ければ、まぁ当然っつーか。
 流石にサッカー始めて真っ黒んなってきたら、ウサギとかみたいな扱いは無くなってきたけど、ピッチの外から見てるヤツらの視線は、“カッコいい”じゃ無くて“カワイイ”が殆どだったから、もういいかってなるよな。
 まあ、別に困ってなかったし、色々貰えたりして割とお得だったし。

 そんな中で、アイツ―――シズルだけは全然違ってた。

 シズルは昔っから背が高くて、見下ろされてる感ハンパなかったけど、でも、他の女子みたいな感じは全くなかった。

 試合ん時、夢中でボールを追っかけてると、大体シズルがデカい声で叫んでる。

『大地っ、止まって!!』
『後ろっ、トーゴ居るよっ!!』
『右っ!走れっっ!!』

 不思議とうるせー、とかは思わなかった。
 チームの中には偉そうって言うヤツもいたけど、そういうヤツは俺が黙らせてた。少なくとも、シズルがいないとこで言うのは許さなかった。
 だって、シズルは目立とーとか、全然考えてる風じゃ無かったし、何より、パスのタイミングが絶妙で、シズルのアシストで何度も決めてたし。

 なのに、何でか、こうなった。

 いや、何でかはわかってる。

 4年になって、上のチームになって直ぐだった。
 シズルだけ、Aチームに選ばれた。
 Aチームは5,6年生しかいなかったのに、何でか、アイツだけ。

 その事にボーゼンとして、次に思ったのは、何でシズルだけ?!、で。

 そう思ったのは当然ながら、俺だけじゃなくて。
 不平不満の嵐が吹き荒れる中で、河田のかーちゃんが言い出したのだ。

『あのコは、女の子だからね~』

 男の子も女の子も同じだけ活動費払ってるのに、試合に出れないんじゃ可愛そうだから。
 そういう理由で、女子も試合に出させてもらってるんだよ、と。

 すげー違和感あった。

 確かに、“ひな”とかはそんなカンジで、いつも味方ゴール付近で突っ立ってるだけだったから、そうだったかもしれないけど。
 でも、シズルは違う。
 そう思ってたハズなのに、何故か言い出せなくて。

 その日から、シズルは4年の中で“ぼっち”になった。


 もちろん、普通に練習してたから、コーチとかは、全然気付いてなかったっぽかった。
 わかりやすく無視するとかも無かった、けど。
 一緒んなってバカ話とか、そういうの。

 シズルは気付いてた。
 なんとなく、様子うかがってるっぽかったから。

 そのたんびに、胸のあたりがちくちくした。
 だからわざと大きな声を出して、みんなを笑わせたりして、シズルが声かけにくいようにした。

 それがなんでか、あの頃はわからなかったけど、多分、怖かったんだと思う。

 シズルをAチームに選んだのはコーチで、シズルが悪いわけじゃない。
 でも、なんでシズルだけ?
 俺だって頑張ってんのに!
 何で―――?!

 その気持ちは、4年終わりの試合で吹き飛んだ。

 シズルはその試合で、センターバックに選ばれた。
 よりによって、センター。
 バック―――守備は、先輩達もあんましたがらないからわかる。
 でも、センターはトクベツだ。
 何で?って、また思った。
 でも、シズルはちゃんと見てた。
 ピッチ全体、全部、ちゃんと。

 だから、バックでセンターだったんだ、と。

 1点ビハインドの後半、もう終わりに近かった。
 同点に追い付く最後のチャンス。
 コーナーキックのキッカーに選ばれたのはシズルだった。

 右コーナーで、右利き。

 シズルの蹴ったボールは、ポンッと大きな山を描いて、ゴールエリア前に落ちた。
 ウチのトップは背ぇ高かったから、ヘディング狙ってたんだと思う。でも、先輩は上手く合わせられなくて、落ちたボールを皆で取り合ってるウチに、向こうがこぼれ球蹴って飛び出した。

 ヤバいっ、カウンター!!

 ピッチの中も外も、全員そう思った。
 めっちゃ焦った。
 だって最後のチャンスだと思ったから、全員相手ゴール前に来てた―――と。

 そう思ってたのに。

 次の瞬間、相手フォワードが大きく蹴り出したボールを、シズルがスライディングで外に蹴り出していた。

 味方が戻る為の時間稼ぎ。
 自陣ゴール前にいたのが、自分1人だったからだ、と気付いて、ボーゼンとした。

 だって、キッカーだったのに?

 後でコーチが言った。
 シズルは蹴って直ぐ、全速力で戻ったんだって。
 向こうが、カウンター得意だって気付いていたから。
 だったら、キッカーやらなきゃいい。
 なんて、誰も言えなかった。
 センタリングが1番上手いのが、シズルだったんだから。

 もしその試合に勝ってたら、違ってたかもしれない。
 勝った嬉しさで、そのノリで、シズルにゴメンなって、言えてたかもしれないのに。

 5年なったら、俺も絶対、Aチームに入る!って。
 そしたら、今度は一緒に勝とうな!って。

 なのに言えなかった。
 シズルは誰とも一緒に来てなかったから、1人でいつの間にか帰ってて。

 練習でも、もう俺らのとこには来ないから、なかなか話しかけられないまま、“その日”がやって来た。
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