一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 その後、藤島さんとお母さんによって私は完璧にドレスアップされた。

 髪はシンプルに上でまとめられ、メイクも崩れていたので一からやり直し。
 付けまつ毛まで導入して、しっかりとアイラインを引けば、いつもは地味な私も派手に見える。すごい! 付けまつ毛!

 上品なネイルも施され、無事私は擬似花嫁に変身した。

 最後に、お母さんが古びた箱を持ってきた。

「これね、お姉ちゃんが結婚式の時につけたティアラなの」

 お母さんの姉。つまり、私の実の母。父との結婚式でつけた忘れ形見。
 大事にしまっておいてくれたことを知り、きゅうっと心が締め付けられた。

「もしよかったら、本番でもこれは使ってあげて」

 二十年以上前ものなのに、とても美しく輝いていているティアラ。華奢なシルバーの台座に、ダイヤと真珠が上品に散りばめられたそれは、あの頃の母の優しい笑顔を思い出すには充分で。

 これをつけた幸せそうな母が、父と寄り添う写真。あの頃、あの家のリビングに飾られていた2人を、はっきりと思い出した。

「……懐かしいわ。お姉ちゃん、とっても綺麗だったのよ。特に高価なわけではないんだけど、これを付けたお姉ちゃんが忘れられなくて、今まで取っておいたの。……美月に、その機会がきたら、渡そうと思って」

 お母さんが少し目を潤ませて教えてくれたその思い。……でも、私、もしかしたら。

「……叶わないかも、しれません」
「え?」
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