一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
***

「お呼びですか」
「おお、今日はね、これとこれと、あとこの案件! よろしくね」
「毎日毎日多すぎませんか? やりますけど!」

 ここは成沢法律事務所の所長室。最近なぜかここに通っている気がする。何かと呼び出され、どの弁護士がやってもよさそうな案件から、難易度の高い裁判まで、色々と仕事を振られている。美月との時間が減るのでやめてほしいが、(俺の願望上)未来の義父だと思うと強く出られないでいる。

「それから、君に見合いの話が来てたから、断っておいた」

 所長も所長で色々な書類仕事を抱えているらしい。執務机の上で乱雑に置かれた書類を整理しながら、思い出したように報告された。

「ありがとうございます」
「君には美月がいるからね」
「はい」

 彼女の名前が出て、思わずにやけてしまう。先日のデートが楽しすぎた。あれから、少しでも時間を見つけては、自宅に帰って会話をするようにしている。

「そういえば、前にも君に縁談を薦めた事あったの、覚えてる?」
「はい、ご自宅にご挨拶に伺う少し前だったかと思いますが……」

 あの頃は、所長が美月の不倫相手だと勘違いしていたこともあり、所長の命令は意地でも聞くかと突っぱねたのだった。
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