一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 老舗のハイクラスホテルで開かれているパーティ。様々な業種の方々がドレスアップして密集している。私はガクガクと緊張で震えながら会場の隅にいた。

「緊張します……」
「大丈夫。俺に任せて」

 本日の晴正さんは王子様のような装いだ。
 少し光沢のある上下の細身スーツの中に白のシャツとシルバーのネクタイ。
 普段も充分イケメンだが、今夜は、より一層輝いてみえますよ?!

 私は、母に相談の上、完全にお任せで全身用意してもらった。袖や肩のあたりは上品なレース、胸元から下は深緑のサテン地ドレス。足元にはシルバーのパンプス。バッグ、髪飾りと色を合わせている。

(晴正さんも隣に居るし……、きっと大丈夫)

 まずは標的改め本日の主役、馬場社長のもとへ。

「この度はおめでとうございます」

 晴正さんが優雅にご挨拶すると、還暦とは思えないほど若々しくダンディな男性が、にこやかに振り向いた。

「あぁ、西園寺先生。ようこそおいでくださいました。……そちらは?」
「婚約者の美月です」

 早速出番だ。私は心のあたふたは顔に出さぬよう気をつけながら微笑み、ゆっくりと礼をする。

「お初にお目にかかります。高峰美月と申します」

 私の姿を見て、少し苦い顔になる馬場社長。

「西園寺先生が婚約しているとは小耳に挟んでおりましたが、こんなに素敵なお嬢さんでしたか。これはうちの麻衣子(まいこ)の出る幕はなさそうだ」

「ありがとうございます。恥ずかしながら、長年彼女を思い続けてきたので、こうして婚約者としてご紹介させていただいて、嬉しく思います」

「ほお。西園寺先生が?」

「はい。やっと振り向いてもらえて、舞い上がっています」

「はっはっは! それはめでたいね!」

 かぁぁっと顔が赤くなるのが分かる。
 それでも頑張って顔を作りながら、はにかむ婚約者を演じた。

 王子様に選ばれたお姫様は、こんな言葉をかけてもらえるのですね……。

 これが偽装婚約でなければ良いのに……。
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