一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 シャワーを浴びて部屋に戻ると高峰さんは誰かと電話をしていた。業務中に私用電話をするなんて珍しい。

「ええ! お見合い?! む、無理です ! 男の人と話すの苦手だって、お母さんも知ってるでしょう?」

 『お見合い』というワードに驚く。恐らく母親からの電話だ。
 不倫のことは親御さんには秘密にしているのだろう。

「お父さんが!? 信じられない! 嫌です! もしもし?! もしもし!? ……切れた……」

 電話を一方的に切られたようで、彼女は暗くなった画面を見つめている。あまりに衝撃的だったのか、掛け直すことも出来ず直立不動のまま立ち尽くしていた。


「高峰さん、お見合い、するの?」

 俺の声に、彼女は、はっと顔を上げた。

「……仕事中に私用の電話をしてすみませんでした……」

 真っ青な顔で彼女は呟いた。

「いや、いいよ。まだ始業時間より早いし。それより、大丈夫?」

「……だ、大丈夫……じゃない、です。……お見合いなんて……。私、男性と話すの苦手なのに。……でも、させられると、思います。は、母の言うことは絶対ですし、今回は父も絡んでるようですから……」

 すごく絶望感溢れる口調で、高峰さんは語った。所長でもなく、俺でもなく、どこの馬の骨ともわからないやつのところに、彼女がお嫁にいくのか?

 そう思うといてもたってもいられなくなった。
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