一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「……所長にバレたら困る?」

 真剣な瞳がこちらを見つめている。先生は所長と私の関係をご存知だったのか。愛海さん以外、誰にも言わないよう口止めしていたのに。

「……はい……。偽装とバレたら激怒すると思います」

「じゃあ、所長の前では絶対にバレないようにしよう。……俺、一人前になったらこの事務所を辞めて、新しい事務所を開くつもりなんだ。もし居心地が悪くなるようなら、少し早いけど辞めてもいい。もしよかったら高峰さんも」

「ええ! そんなご迷惑かけられません! それにこの事務所には西園寺先生の力が必要です!」

「ありがとう。でも、困ってる高峰さんを助けずに、寿退社される方が俺は嫌なんだ」

 正義感溢れる先生らしいお心遣い。さすが、人気弁護士。何の迷いもなく、力強い瞳が私を見つめていて、この誠実な瞳に頼りたくなってしまう。

「お願いだ。助けてって言ってほしい」

 先生が私の両肩を掴んで、私の返事を待っている。

 お見合い……初対面の殿方と話が弾む訳もなく、何故それを知っているはずの両親がお見合い話をしてきたのか。皆目見当がつかない。

 現実的に考えて、私のような男性に不慣れな者は、お見合いで出会いを求めるべきなのだろう。でも、高望みだと分かっているけれど、出来れば、あのときめくゲームのように、ステキな恋愛の末に結婚がしたい。

 そう思って私は、蚊の鳴くような声で囁いた。

「……助けて、ください……」
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