一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 ああ、なんということでしょう。

 あれだけ助けていただいた西園寺先生にまで嘘をついてしまった。

 百戦錬磨の弁護士先生だから、この見え見えな嘘はお気づきになられたかもしれない。そう思うと、胃のあたりがギューっと罪悪感とともに押し潰されそうになる。

「……そう? じゃあお腹空いてきたし、とりあえず晩御飯、外に食べに行く? 疲れてたら出前でもいいし」
「食材があるなら何か作りましょうか?」

 その瞬間、先生の目が輝いた気がした。申し訳ない気持ちが強くて提案したのだが……。

「た、食べたい!! あー……、でも食材がない! 米もない! むしろインスタントラーメンさえない! くそう、失敗したー!」

 裁判は連戦連勝の先生。悔しがっている姿を初めてみた。
 ご多忙なので手料理とはかけ離れた食生活なのかもしれない。でも素晴らしい料理を期待されているのならプレッシャーだ。い、言わなきゃ良かったかしら。

「食材買っておくから、そのうち絶対作ってほしい! 高峰さんの手料理が食べたいです! ……でも、今日は疲れてるだろうから、出前にしよう!」
「あ、ありがとうございます」

 正直、少々疲れている。朝から実家で挨拶で緊張して、婚約が嘘だとバレないかヒヤヒヤして、更には突然の引越し。
 よって、先生のお申し出は大変有り難いものだった。

「……すみません……。何だか結局、とんでもなくご迷惑をおかけしてしまって」
「全然迷惑じゃないよ。むしろ、こちらとしてはラッキーというか」
「え?」
「いやこっちの話。引越しといえば蕎麦かな? でも天丼の気分かな。高峰さんは何にする?」

 先生は優しい。正義感溢れる立派な方。そのご厚意に甘えた結果、このような驚愕の展開を迎えてしまって……。

 どうしましょう。取り返しのつかないことをしてしまったのでは。先生には交際している方はいないのかしら。
 家に私が転がり込んだら、大変なご迷惑になるのでは!?
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