一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

 晴正さんは朝食をモリモリ食べた後、別人のようにきびきびと動き始めた。そしてダークブルーのスーツにワインレッドのネクタイでビシッと決めた姿は、立派な弁護士先生だ。

 イケメンがスーツを着ると無敵である。眼福です!

 今日は朝からクライアント先と打ち合わせなので、私とは別行動。先に出る晴正さんを玄関でお見送りする。

「では、いってらっしゃいませ」
「うん。行ってくるね」

 ドアに手を掛けた晴正さんが、「忘れ物……」と言って振り向いた。そしてその瞬間、晴正さんの腕の中にすっぽり納められてしまった。

「は、晴正さん?」
「……うん、元気出た」

 抱き締めた状態でしみじみとそう言われ、混乱する。耳元で晴正さんの少し低い声が響いて、胸が高鳴った。私は反応に困り、ただ棒立ちになってぎゅっとされている。

「出掛ける前には必ずこうして、美月を抱き締めたい。美月も、俺に慣れる練習になるでしょ?」

(なんと! これ練習だったのですね!)

 そうとは知らず恥ずかしがるだけで……申し訳ない! 高峰美月、ちゃんと受けて立ちますよ!

「わ、分かりました! どんとこいです!」
「ふっ……ありがと」

 そうして晴正さんは、より一層力を強くして、私をめいっぱい抱き締めてから家を出たのだった。

 やっぱりイケメンとの共同生活は心臓に悪い。

 でも、もしかしたら、最近、私の元気が無いのを気付いているのかもしれない……。仕事中は特に、暗いのかも。
 気を遣わせてしまったのだろうか。気をつけなければ。
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