legal office(法律事務所)に恋の罠
来たときと同じように、ドライバー付きの黒いセダンに誘導されると、和奏は奏と一緒に並んで後部座席に座った。

宇津井から離れた安堵で溜め息が溢れる。

いつもなら、仲川芸能事務所の交渉事を行う際に隣にいるのは、叔父の庄太郎か秘書の湊介の役割だった。

なのに、湊介の気まぐれ?いや思惑なのか、

今日は、クライアントの代理人である、男性しかも無類のイケメンCEOの桜坂奏が隣にいる。



仲川晴臣社長が言うように、過去に五回、和奏は将生が起こしたトラブルに対応してきた。

初めの三回は叔父の庄太郎の手伝いとして。

残りの二回は、和奏主導のケースだったが、いずれも晴臣が将生の代理人として交渉に出向いてきていた。

今回、直美と組んだ捕り物劇は、将生と和奏が初めて対面したケースであったため上手くいったようなものだ。

前回の将生のケースは、将生が主催するイベントサークルに、所有するイベントホールを貸した女性オーナーが、代金が未払いであったことに対して和奏に相談を持ちかけてきたことが発端だった。

仲川社長とは顔見知りだったため、和奏はそのケースも簡単に引き受けたが、社長室に出向いて新しい顧問弁護士に接見した際、心の底から後悔することになった。

宇津井洋士、29歳、T大学法学部の二期上の先輩。

アメフト部のクォーターバックで活躍する彼は、チームの司令塔として周囲から一目おかれる存在。

しかし、アメフトの練習や試合が忙しく、毎年、司法試験予備試験を受けるもののなかなか合格しない現状があった。

そして、ついには大学院に残り、アメフト部のコーチとしての二足のわらじを履いて頑張る優等生ぶりが評価され、時の人となっていたようだった。

彼が大学四年生の時、二期下の和奏が司法試験予備試験に受かったとのニュースが法学部に広がった。

大学生のうちに合格する者は例年でも少なく、女子ではここ数年合格者がおらず、和奏は注目を浴びた。

司法試験予備試験後も大学の図書館で勉強する和奏に、宇津井が声をかけてきたのはその頃だった。

根拠のない自信に溢れる宇津井は、和奏に

「お前みたいな女は嫌いじゃない。俺が付き合ってやってもいいぞ」

と突然話しかけてきた。

和奏にとっては初めて会う男性。

同期でもないため顔も知らなかった。

「どなたか存じ上げませんが、間に合ってます。私には彼氏もいますから」

そう言って眼鏡の縁に手を掛けて答えた和奏は、直ぐに六法全書に目を戻した。

それからである。

執拗な嫌がらせと、猛烈なアプローチに振り回されるようになったのは・・・。

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