legal office(法律事務所)に恋の罠
その日の夜、和奏は定時に仕事を終えると、一旦、山崎legal officeに戻った。

今週の金曜日までは、ホテルに缶詰状態で新規規約や職務規律などを見直さなければならない。

莉音の件も最終的な書類のまとめが残っているし、他の片付いた案件でも、ポツポツと文書の確認作業などが残っていた。

奏とは、20時にダイニングバーで待ち合わせをしている。

仕事が終わった後でも、奏と顔を付き合わせるなんて、和奏は望んでいなかったが、小池や吉村の意図が気になる。

「よう、どうだった?初日の高級ホテルは?」

「遊びに行ったみたいに言わないで下さい。山崎先生」

庄太郎は、アハハと笑うと手に持ったペットボトルのお茶を飲みほした。

「・・・小池くんに会いました」

「おー、元気そうだっただろう?」

「はい、可愛らしい婚約者と一緒に結婚式の打ち合わせに来ていて、とっても幸せそうでした」

そう言って和奏が笑うと、

「そうか、彼と再会しても、辛くはなかったか?」

と庄太郎は言った。

「小池くんが辛そうにしていたら、私も辛かったでしょうけど、幸せそうで、やっと安心できました」

「そうだね」

庄太郎と小池の関係も、8年前から始まった。

しかし、和奏と違って、庄太郎と小池の関係は今でも続いている。

和奏と小池が別れてから、表だって彼を支えてきたのは庄太郎だ。

弁護士として、庄太郎は出来る限りの法的手段で彼を武装した。

「綾ちゃんはいい子だが、和奏とは真逆のキャラクターだ。だから、宇津井が狙うこともない。これで、彼の周りも本当に落ち着くはずだ」

「おじさん、本当にありがとう」

その感謝の気持ちには色々な思いが表されていた。

「次は、和奏の番だ」

優しく言った庄太郎に、和奏は首を振る。

「いいえ、私はもういいの。あんな思いは一度でたくさん」

よいしょ、と書類を抱えて文書棚に歩いて行った和奏は、困ったような顔で庄太郎に微笑んでみせた。

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