legal office(法律事務所)に恋の罠
「こちらのセミスイートには、キッチン、バストイレとクイーンサイズのベッドが用意してある。毎朝一回、ハウスキーピングを寄越すけど、毎日が気になるならDo not disturb の札を下げていて」

部屋を解錠すると、奏が和奏を部屋に案内した。

メインルームの他に、ゲストルームも完備してあるから打ち合わせなどもできそうだ。

後方でドアが閉まると、奏は和奏を力強く抱き締めた。

「怖いんだろ?和奏、もう我慢しなくていい」

と頭上から優しく囁いた。

「いえ、ここにいればどこよりも安心できますから」

「いや、ホテルといえども完全ではない。俺も明日からはここに泊まるから」

そう言った奏に、驚いた和奏は大きく横に首を振る。

「そんな・・・。社長が顧問弁護士の部屋で寝泊まりするなど前代未聞です」

「このフロアは信頼のおける警備員のみで監視をしている。いわばVIP向けの対応だ。秘密は守られる。念のため、彼らにだけは、俺が仕事の打ち合わせのためにこの部屋に出入りすることは伝えてある。その点は心配はいらない」

"それに"

「俺もこのフロアに、仕事が溜まって帰れない時用の部屋を一つ持っているから」

とニッと笑った。

奏の言葉に、いつの間にそんな策略を張り巡らせたのか、と驚いたが、和奏は正直一人でいるのは怖かったので助かった。

「できるだけ早く・・・なんとかしますから」

「しばらく大人しくしてたんだろう?なんでまた、急に和奏に近づき始めたんだ?」

「宇津井は、山崎弁護士の挑発に乗ったんですよ」

"何年も弁護士にもなれないような奴には和奏は渡さない。俺たちと同じ土俵に上がってきたら、お前にも和奏を口説く資格があると思ってやってもいいだろう。まあ、それまでに和奏が結婚してなければだけどな"

和奏への執拗なアプローチと小池への嫌がらせがエスカレートし、いよいよ小池も和奏も心身に不調を来し始めた頃、

見かねた庄太郎が宇津井を呼び出して言った。

小池に対する宇津井からの嫌がらせに関する対応は山崎に一任され、今後も続ける場合は、裁判を起こす準備があることも伝えた。

"なんのことかわからないな"

しらばっくれる宇津井への時間稼ぎのために、山崎は弁護士になれない宇津井のプライドを刺激した。

山崎の言い種に納得した訳ではなさそうだったが、昨年、弁護士資格を得るまで、宇津井は和奏に接触してこなかったのは事実だ。

ある、一点を除いて・・・。

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