レンダー・ユアセルフ





──考えてみれば可笑しな話である。






「きみは一体彼に何を言ったんだ?あいつのあんな表情、初めて見たよ」

「……」

「アリアナ、聞いているの?」







カツンカツン、尚も毅然と足を進ませる彼女の隣を守りながら歩調を合わせるジーファ。

隠そうともしない彼の「素」が意味すること。それは、あたりに人の気配が無いことである。

あのあと直ぐにパーティ会場を抜けた彼女を若干瞠目し追うジーファの外見は、微塵も乱れていないのだから他の人間が気付く筈もない。






──そんな中彼女の胸中を占めていたのは、他でもない自身に対する「驚愕」だった。




「(私はどうしてあんなことを…)」








この男とは婚約こそ甘んじる結果に至ったものの、このまま大人しく結婚してやるつもりなど無かったのに。

…にも関わらずジーファの国における重鎮とも呼べる人物に喧嘩を売ってしまったこと。

あの行動自体に対する後悔はない。けれど、結果として彼女が自分の首を自らの手で締めてしまったことには変わりないのである。




< 58 / 162 >

この作品をシェア

pagetop