レンダー・ユアセルフ





「僕には家族と呼べる人間がいないから」

「ジョシュア!」





僅かな怒りを込めて声を張り上げたアリアナを、驚きと共に振り返ったジョシュア。

大きな瞳を一杯に開いて柳眉を吊り上げる彼女の様相は、この場にそぐわない所感とは承知でも──美しいと呼ばざるを得なかった。







「そんなことを言っては駄目!貴方のことを大事にしていた人の思いを無かったことにしては駄目よ!」

「……大事に思ってくれた人って…いるの?」








泣きそうな表情でアリアナの顔を覗き込むこの国の王子。その姿が、母親を前にして甘えたい願望を顕わにする子どもの様で。







「いるじゃない」







強く言うアリアナも又、彼に対し胸奥から情が芽生えたことを覚っていた。







「貴方を我が子のように大事にしていた…女中が、いるじゃない」








今になって漸く判る。何故ジョシュアがアリアナの見当違いをこれまで正そうとしなかったのか。




彼が言った通り、これまで築いてきた彼らの関係を壊すことが恐かったことも本当だろう。しかしながら、真実は別にあるのではないかと彼女は思う。

誰の目から見てもあの頃のジョシュアはあの女中に懐いていたし、彼女も又まるで我が子を見るかのごとく優しい瞳で彼を見つめていた。





だからこそアリアナも、親子なのではないかと勘違いしたのだ。そして間違いを指摘しなかった幼きジョシュアが、出逢って間も無い彼女との関係の崩壊を果たして危惧するだろうか。




< 83 / 162 >

この作品をシェア

pagetop