月夜の砂漠に一つ星煌めく
「えっ?ジャラール王子?」

顔を上げた女中は、何事かと言う表情をしている。

「我が母が亡くなられた後、私を育ててくれた事、恩にきる。敵国の子である私の面倒を見るなど、苦労ばかりであっただろう?」

「そんな!滅相もございません!」

女中は取り乱しながら、俺の目の前に、膝待ついた。

「いいんだ。そなたがいなければ、私はこの日を迎える事はできなかっただろう。改めて礼を言う。」

「ジャラール王子……」

すると女中は、俺の体に顔を埋めながら、大声で泣き始めた。


それを見て慌てたのは、ハーキムの方だった。

大泣きしている女中を、俺から引き離そうと、必死だった。

「構わぬ、ハーキム。」

「いえ、これではせっかくのお召し物が、涙で汚れてしまいます。さあ、母上。」

何気ない一言に、目が飛び出すくらい驚いた。

「は、母上!?ハーキムの!?」

「あれ?言ってませんでしたっけ?」
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