月夜の砂漠に一つ星煌めく
ハーキムは、今さら?と言う顔をしている。

「聞いていない。」

今日だけは不機嫌にならないようにと思っていたのに。

「それは失礼しました。」

2歳しか違わないと言うのに、やけに冷静なハーキムが憎い。

「だから、ハーキムの成人の儀の時に、この者もいたのか。」


成人の儀と言っても、ハーキムの部屋で、ご馳走を食べ一晩騒いだだけなんだが。

「だったら、もう名前を教えてくれたっていいだろう。」

女中とハーキムが、顔を見合わせる。

「俺なりに、いろいろと調べた。育てた女中の名前を明かさないのは、王子が成人した際、その者を特別扱いしない為であろう。名前を知らなければ、何も与える事はできないからな。ハーキムの母親だと教えなかったのも、同じ意味だろう。」

「ジャラール様……」

ハーキムがうつ向く中、俺は女中の手を、そっと握った。

「でも私には、無意味だ。国王になる事もない私に、名前を教えたとて、何も与える事はできぬ。」
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