世継ぎで舞姫の君に恋をする

24、鬼は内!

季節の変わり目に邪気を払い、福を呼ぶ節分の行事は、ベルゼラでは年に4回行われる。
主に、魔を滅っするためのパワーをつけるために豆を食べ、豆を撒き、そして魔を払うために、太鼓など、大きな音を叩いて回る。

特に秋から冬の節分では、魔や鬼といった想像上の魔物の扮装をして、親しい者の間では、各家をめぐるのも流行っている。
その家の者に、豆を撒かれて退散するのだ。

節分を迎えた今日は朝から誰かが叩く太鼓やどらの音がどこからともなく聞こえてきて、王宮も、王宮を囲むようにある王都も騒がしい。
祭りやイベントには必ずゼプシーたちがやって来ていた。
今日は例の王宮の野外音楽堂に、彼らが招待されてくる。
王のはからいである。

ユーディアには初めての秋の節分だった。
厨房に行くと、彼らはいつも以上に忙しく働いていた。

「食器を洗わなくていい、手軽に食べられるものを作るぞ!昼も夜もそれを食べてもらって、厨房も昼から休みにする!」

ガレー料理長はおかずをご飯で巻いて、外側はさらに、海の海苔で巻いたものを、大量に作らせていた。
草原の国では海の物は貴重である。
祭りのための料理でありつつ、後片付けのいらないとっておきのものであった。

中に巻いたおかずのパターンもイロイロあって美味しそうである。

ジャンはユーディアに気がついた。
彼は頭のてっぺんに面をつけていた。
そういえば皆、なにかしら、角が生えたものや、こわそうな想像上の魔物の仮面を頭の後ろにつけていたりする。

「ユーディアは面をつけないの?厨房用の面で余っているものならつけてもいいよ?
後で、野外音楽堂に行こう!終日、ゼプシーたちや、王宮勤めの腕に自信のあるものが、出し物をしているってさ!」

ユーディアは、部屋の隅の箱の面を手に取ってみた。
様々な表情や色をした恐ろしい魔の面の中には、可愛い鬼の面や動物のも混ざる。


その時、厨房の中に、
「鬼は外~!」
との元気な掛け声と共に、ユーディアたちに豆が叩きつけられた。
「痛っ!」
と振り向くと、ちいさな男の子である。
鬼の面を頭に被っている。
ユーディアは、さらに狙われて豆粒を100粒ほど浴びる。


「普段は後宮から出られないアズールさまだ、本当にやんちゃで困る!」

きゃはは!と笑い声をあげながら、疾風のように男の子は駆けていった。
「アズールさま~!!」
その後を同じく鬼の面を被って村娘に仮装した女官が走って追いかけている。

アズールとは、ベルゼラ国第二王子である。二番目の妃の息子である。

遠くできゃあ!と悲鳴が上がる。
あちこちで豆を人にぶつけては喜んでいるようだった。
かなりやんちゃな王子である。
ジプサムが子供の頃は、運動不足の太っちょであったことと比べると同じ兄弟でも全然違うようであった。

「今日はジプサムさまは?」
ジャンは聞く。
「ジプサム王子は自分の騎士の選考に立ち会っている」

それを聞いてジャンはああ、という顔をした。
19才でようやく自分の騎士を選ぶ。
騎士はほぼ一生自分に付き従う。ジプサムはその責任の重さに、騎士を選ぶことを頑なに拒んでいたのだが、ようやくその重い腰があがったのだった。
その人選に、ジプサムは苦労をしているようであった。

なんだか、ユーディアは置いていかれたような気になる。

ユーディアは顔半分を隠す面を手にした。
鼻が突き出た鷹の白い面だ。
キラキラとストーンで豪華に飾られている。


「ジャンまた後で!!」

ユーディアはディアになり、ジプサムと会いたかった。
仮面はちょうど良かった。
部屋に戻ると、胸の晒をほどき、白く大判の布を体に巻き付け、首の後で結ぶ。
念のために、織の細布をベルト代りに結ぶ。

即席のドレスの出来上りだった。
シルクのショールを肩に羽織って白い鷹の仮面を付ける。
ジプサムとの間の扉の下に、メモを差し入れる。

野外音楽堂にディアが来ている。

ユーディアは、今日は一日ディアになるつもりである。
すれ違うものは今日は仮装をして仮面を被る。誰が誰だか分からない。

女に戻ったユーディアに、誰も気がつかない。
ユーディアは野外音楽堂へいく。
既に太鼓をうちならし、ゼプシーたちが輪を投げて体で受け取ったり、火の玉をジャグリングしたりと、さまざまな芸を披露していて、多くの人集りが出来ていた。

美味しそうな匂いをさせる屋台なども出ていて、いつもレギーと二人舞台だった舞台に、溢れる人と賑わいに、ユーディアは驚く。

ユーディアは野外客席の隅に落ち着ける場所を確保する。
このゼプシーたちには見覚えがあった。
そう思って探すと、舞台袖で指示をする女族長を見つける。
「ベラ!」
と駆け寄ると、ゼプシーの族長は驚いてユーディアを見る。
「あんたは誰だっけ?」
仮面を外す。それでもピンと来なさそうなので、ユーディアはモルガンの祝いの、、と言うとわかったようだった。

「あんときの舞姫かい!こりゃあビックリした。今日は一日暇なのかい?あんたも踊るかい?ベルゼラの王さまは、あれでいてモルガンの音楽やら踊りやらが好きだから、連れてきたよ!」
ベラがあごで指した先には、鬼の仮面の短髪の男たち。
男たちが仮面をずらして素顔を見せる。
懐かしい顔だった。
「やあ、ディア!」
「シャビ!トーレス!」
ユーディアの健康そうな顔をみて、二人はあからさまにホッとする。
過酷な状況におかれているようであればそのまま連れ帰ることもありと考えていた。
久々の幼馴染は再会の喜びに抱き合ったのだった。

舞台は、女官たちの歌だった。
シャビたちも笛と太鼓を叩く。
あれから、何回かゼクシーたちと合流したらしい。
騎士たちの女装コンテストには会場中が沸く。
賑やかな節分の祭りは、王宮勤めの昼間のパートが終わろうとしている。

ユーディアは客席で一人眺める。
楽しい祭りだった。モルガンでも祭りは皆で馬鹿騒ぎをしたものだった。

ユーディアの仮面の前に、頭の上から手が伸びる。
ジプサムと思って顔をあげると、角が二本の鬼の仮面。
「寂しくなったのかい?」
にっこりセクシーな口許が笑う。
「、、、レギー?」
「そういう、姫はディア?」
ユーディアの手に、レギーの手から豆粒が山盛り移される。
レギーは後ろの席からユーディアの隣の席に降りる。
レギーは夜に会っている時よりも、質の良さげな、金の刺繍の入った服を着ている。
「今日はおめかししているのね!」
「貴族?の仮装だよ」
と、レギーはいう。
「それより、姫さまはひとりなの?」
「うん。わたしの待ち人は来ないの」
「なんか、妬けるな」
この男は再婚したとか言っていなかったか?
「妬けるってレギーには妻がいるでしょう?」
レギーは肩をすくめた。
「結婚しても、愛がなければ何人いても意味はない」
「結婚は愛するもの一人だけでするものでしょう?ベルゼラは一夫多妻制だったかしら?」
「ははっ。言葉の綾だよ、ディア」
仮面の奥でレギーは悲しく笑う。
「さあ、ディア!豆を撒いて悪を払ってくれ!鬼は外~!福は内~!」
レギーは前に座る客席に向かって豆を撒いた。
あははっとレギーは笑う。
少年のような人だとユーディアは思った。

「鬼は内!福は内!」
ユーディアも、叫びながら豪快に撒いてみた。
「ディア、鬼は外にやらないと!これは体の中の邪気や悪を追い払う風習だ」
すぐにレギーは訂正する。

「そうかもしれないけど、今日の豆まきは豪快すぎて、わたしたちの体から悪が全てなくなっちゃいそう。わたしたちは、いい面、悪い面、光りと闇でできているから、福ばかりでは、おかしくなるわ!」
ディアはいう。
「一日中太陽が出ていれば、24時間働かなくちゃならないわ!」
「、、、なるほど。面白いな。ならわたしも、鬼は内だ!」
レギーとディアは全ての豆を、鬼は内、福は内で撒き切ったのだった。

日は落ちる。
シャビとトーレスがユーディアを見る。
指で会話をする。
次がモルガンの曲だぞ?踊りたいんだろう?

もちろん。

「、、、いくわ!今日は友人たちが来ているの。レギーも踊る?」
ユーディアはパートナーを誘う。
あれから何度も二人で踊っていた。
「、、、気が向いたら」
だが意外に男は重い腰をしている。
あれだけ踊れるのに見せるつもりはないなんていうことがあるのだろうか?と不思議に思う。
男を残して、ユーディアは舞台に立つ。

舞台に立てばジプサムがやって来るのがわかる。
仮面をつけていても、人混みに紛れていても、ユーディアはジプサムだとわかった。

ユーディアはたっぷり三呼吸、気持ちを落ち着ける。
舞台に一人だった。後姿で立つ。仮面は外さない。
視線を感じる。ジプサムが自分に気がついた。

たんたんたん!
舞姫は床を踏み鳴らした。

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