【完】さつきあめ〜2nd〜

「はは、ごめん。今日も由真ママ酔っぱらってお店で寝ているだろう?
やっぱり心配でさ」

由真の名前を口にすると、沢村はいつもよりずっと優しい顔になった。
これがこの人の素の顔なんだ。

「やっぱり沢村さんにとって由真さんは特別ですね」

「誰にでも優しくすると、さくらさんの言う通り本当に大切な物を失くしてしまいそうだ。
じゃあ僕はこれで、マスター今日の代金はつけといてね」

沢村がそう言うとマスターはこくんと頷いて、わたしに頭を下げた後、ゆっくりと立ち上がる。

沢村のように、大切な人の為に自分の出来る事をして、見守る事が愛だと思っていた。
わたしも、そうなりたかった。
朝日が誰と恋をしても、誰を愛しく想っても、誰を抱いたとしても、それを見守って優しく思えるほど、朝日を大切に思いたかった。
でも現実は全然逆で、わたしは沢村みたいに大人にもなれなくて、自分で決めた事なのに、朝日と誰かが一緒にいるだけで泣きだしてしまうほど苦しいなんて、どれだけ弱かったのだろう。
いつもいつも結局は自分の事ばかりだった。
愛を与えれる人になりたかった。無償と言えるほどの。まるで、母親が子供に与えるような。
そしてあなたもあの人も、本当はそんな人を探していたのね。

< 155 / 826 >

この作品をシェア

pagetop