【完】さつきあめ〜2nd〜

事件は10月の終わりに起こった。
足音も立てずに、絶望はすぐ近くまで来ていたりするものだ。
そんな事も知らずに、呑気に過ごしていたと思う。

「ん~!!美味しい!!ここの焼き鳥は格別だね!!」

いつも通り仕事が終わって、たまたま朝日と帰る時間が一緒になって、たまにはという事で焼き鳥屋さんに来た。

「店は汚ねぇけど味は確かだからな」

「おいおい、朝日くん、店は汚いは余計なんじゃないか?
ほら、ビール2丁!!」

「事実じゃねぇか!何か床斜めになってるしよ!」

「あっはっは!味があると言ってほしいねぇ!」

朝日は何年もこの街にいるだけあって、実に様々なお店を知っていた。
わたしはあまりそういったお店を好まないので、高級店にはあまり連れて行ってもらった事がない。けれど、高級な料理屋さんなども接待などで使うらしく詳しかった。
そして今日来た知る人ぞ知る、みたいな庶民的な隠れ家のお店もよく知っていた。
昔連れて行ってくれた韓国人の夫婦がやっているような焼き肉屋さんだってそうだし、お世辞にも綺麗とは言えないけれど、味は確かなお店を沢山知っていた。
同伴ではお客さんはあまりこういう場所を選ばなかった。
だから朝日とこうやって外食するのは新鮮だった。

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