【完】さつきあめ〜2nd〜
「いや、さくらが俺を朝日って呼ぶ事なかったから」

「あなたは朝日で、あたしは夕陽」

そんな小さな繋がりさえ、鬱陶しく思ったあの日。
わたしが自ら、自分の本名を言ったのなんか、光くらいしかいなくて。

「あぁ、知ってるよ」

「知ってたんだ……」

「光は完璧主義なところがあるからな。
店や俺の前じゃあぜってぇお前を夕陽とは呼びやしねぇよ。
でも1回ゆいの件でお前が病院に運ばれた時あったよな、あの日のあいつはそういう完璧主義なところや自分の中で絶対抑えていた部分全部忘れちまうくらい焦ってたんだろうな。ベッドで眠るお前に夕陽、夕陽って何度も呼んでたよ。泣きそうになりやがって。
あれは少しウケた

少しウケたし、嫉妬した」

「知っていても、あなたは一度だって夕陽って呼んでくれなかったね」

「いや、あれはお前と光の特別なもんだって思ってたし、さくら俺に本名で呼ばれるの絶対嫌だろうなーって思って。
お前はさくらでいれたから、この1ヵ月も俺と一緒にいてくれたんだ」

違う。全部違うよ。
朝日と過ごして、朝日に抱かれたのは、さくらなんかじゃなくて、紛れもなく夕陽で、わたし自身だった。
愛しい人に抱かれるただの女だった。

わたしは真っ青な空を見上げて呟いた。

「あたしは、夕陽より、朝日が好き…」

「え?」

< 37 / 826 >

この作品をシェア

pagetop