【完】さつきあめ〜2nd〜

わたしを呼ぶ、強い声。
くるりと振り返り、笑って見せる。
決めたんだ。絶対に泣かないって。
そんな弱虫じゃあ、あなたの夢を叶えられない。

「朝日、少しはあたしを信じてよ。
ただのあたしなんて信じなくていいからさ。
キャバ嬢である、’さくら’を信じて」

さくら、そう言ったら朝日の瞳が一瞬怯んだ気がした。
その表情は何とも言えなくて、朝日が考えている事は分からなかった。

ねぇ、あなたはさ決してわたしを夕陽とは呼んでくれなかったね。
光はいつも、ふたりきりの時はわたしをさくらではなく、夕陽と呼んだ。
それを何故かなんて怖くてずっと聞けなかったよ。

あなたがいつもいつだって、わたしとさくらさんを重ねて見ていた気がどこかでしたから。
朝日が拘ったのも、捨てきれなかった物も、わたし自身ではなく、わたしの先に見てた、この名を持つさくらさんだった気がずっとしていたから。


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