【完】さつきあめ〜2nd〜
俺とさくらは表向き上手くいっていたように見えた。
無理やり始めた同棲は思っていたより上手くいったし、男としてのプライドとして、さくらには金を出させたくはなかった。だから同棲していたアパートはさくらが一人暮らしをしていたマンションよりずっと狭くて、ぼろいマンションだった。
ただの黒服は給料が驚く程少なくて、労働時間が長い。
さくらにしてあげられる事は少なかったけど、それでも狭い部屋で寄り添いあって生きる事にさくらは文句のひとつも言わずににこにこ笑っていた。

小さな狭い部屋でも、高級車に乗っていなくても、高価なプレゼントを渡せなくてもさくらはいつだって笑っていた。
惜しみなく愛情を捧げる彼女を見て、女神だと思っていた。
けれどさくらのその愛情をいつしか俺の物だけにしたくて……。

「さくらって掴みどころがないのよね」

とある日の営業中、まだ若かった由真が言った。

それはとある暇な中日で、客も店内にまばらな日だった。さくらはいつも通り暇な日でも指名の客を呼んで、お客さんの前でにこにこと楽しそうに笑いながら喋っていた。
そんなさくらを、由真と並んで見つめる。

「なんていうか……時たま怖くなるわ。感情ないんじゃないかって
あんなに笑ってるのに。ねぇ有明さんあたし可笑しい事言ってる?」

俺の顔を覗き込んできた由真が意地悪を言う風じゃなかった事。
本当に心配していた事。
さくらと由真は初めは余り仲が良いキャストではなかった。どちらかと言うと由真がさくらを敵対視していて、一方的に競いあっていたというところか。
けれどさくらは全然そんなつもりもなかったし、戦意喪失と言ったところか、意地悪をしたってへっちゃらって顔をするさくらに由真は半ば呆れ気味と言った感じで、それどころかさくらはそんな由真にさえ人懐っこい顔を見せた。
そんなさくらがナンバー1であるからこそ、ONEはとても環境の良いキャバクラだ。

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