【完】さつきあめ〜2nd〜

電話口の愛は酷く混乱していた。
それとは逆に、電話を代わったるなはびっくりするほど落ち着いていて
ゆっくりとわたしへ病院の名前と場所を説明してくれた。

それでも愛と同じように動揺を隠せなかったのが、私自身だ。

ゆいの事があったように、感情の絡みやすい仕事ほどこういった事件が起こりやすい。
誰の身にだって降りかかるかもしれない事件だったかもしれない。けれど、形のない物を提供する私たちの身の上ではそれに巻き込まれる確率がぐっと上がるのだ。

確かにキャバ嬢としても美月には問題があったかもしれない。
けれど、自分の子供を絶対に捨てないと言った彼女の強い眼差しを知っている。
自分自身を否定されるような環境の中で、守ると決めた小さな命。
…どうしてもわたしが受け入れられなかった命。
失われてはいけなかった命。

慌てて病院まで行って、病室の前に行くと看護師の女性が立っていて寝間着にコートを羽織っただけのわたしを怪訝そうな顔で見た。
そりゃーそうだ。
足元はこの時期なのに玄関にあったサンダルだったし、やけに派手髪のすっぴんの女がいたらこんな表情をされるのも無理はない。
息を整えて、その看護師さんに話をかけようとした時、だった。

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