【完】さつきあめ〜2nd〜

キャバ嬢としてのナンバー1なんかじゃない。
お金でもない、そういった地位や名誉を捨てても、欲しかった物が。
そして、それがもう手に入らないと分かったら、人はどうすると思う。俺はゆりや誰の中にでもある弱さにつけこんだ。
結局は仕事として女を利用しないと生きてはいけない。でも何故あの人の中にはそういった計算が見つけられないんだろう。
打算ではない何かがあの人の中には生まれながらにあるのだろう。そして、地位や名誉を失ったとしても、きっと彼は失った物を拾いあげて、再びその手の中に収めるのだろう。
才能、とはそういう物だ。

この世界に特別な人間はいる。
そして自分の願いを叶え、どんな状況でも欲しかった物を手に入れる事が出来る人間がいる。
そう、ただこの世界で自分が特別な人間じゃなかっただけ。
平凡な人間が、才能を持つ人間の真似事をしてみたところで、所詮それは真似事に過ぎない。
親父の金で遊んでる道楽息子。よっぽどまともに大学を卒業して、企業勤めをする平凡な人生がお似合いな男だった。
俺は、特別な才能を持つ人間に憧れた、ただの平凡な人間。才能を持った兄を羨む、ただの弟だった。

「ゆりさんに勝とうとするなんて無謀なんですよ。さくらさんは相変わらずだ」

明け方の事務所。
事務所の窓から見える空が暗く染まっていて、横殴りの雨が窓を打つ。
ぼんやりとそれを眺めているとお喋りな原田がパソコンをいじりながら嘲笑いながら言う。

< 617 / 826 >

この作品をシェア

pagetop