【完】さつきあめ〜2nd〜
「ありがとう…本当に皆ありがとう……」
わたしは子供みたいに泣きじゃくった。
美優は既に泣き止んでいて、両手でわたしの頬を掴んで、ふわりと笑った。
いつも一緒にいて、いつもかたわらにあったのと同じ笑顔だ。
「さくら~…ぶっさいく~…マスカラ落ちてパンダになってる~…」
「なによー…。美優ちゃんこそ…」
「はいはい。さくらの指名客はここだけじゃあないんだから、グラス持って!!かんぱーい!!」
かつて、笑い合っていた場所があった。
わたしは自分自身の手でこの場所を捨てようともした。けれど、捨てきれなかった。捨てないで良かった。
どんな場所にいたとしても、そこにたどり着くまでに築き上げた絆は消える事がないんだって
わたしは、やっぱりシーズンズで大切な人たちに出会ってきたのだと実感する。
その後もわたしの指名は止まる事がなかった。
見慣れた顔をした人々は口を揃えて、わたしを温かく受け入れてくれた。
どこまでもひとりきりだと感じる夜がある。
星の見えない空を、代わりにネオンで見立てる夜の中で、誰もが寂しくて孤独に震えていて、ひとりぼっちになりたくなくて、誰かと一緒にいる。
お客さんも、わたしたちキャバ嬢だってそう。
華やかなホールの中で、ふとした時に感じる埋められない孤独。それでもわたしたちは誰かと繋がっていなくちゃ生きてはいけない。