【完】さつきあめ〜2nd〜

だから自分と同じ体温を持つ、彼が俺を抱きしめた時

「ごめん……」

俺よりもずっと震えていたその体に
顔を上げた瞬間
俺は初めて兄貴が泣いている姿を見た。

いままでどんな事があっても涙を見せる事がなかった。
さくらが死んだ日も、兄貴はただただ空を睨みつけていた。
その兄貴が、俺を抱きしめて涙を流している。怒るでもなく、ただただ泣いている。
俺は何故兄貴が謝るのか、泣いているのか、分からなかった。

「ずっと辛い想いさせて…ごめんな…光…」

その言葉に、目の前の光景がますますぼやけていく事が分かった。
俺を責める事もせずに、謝る兄貴に対して、敵わないって思った。

「お前に長い間そんな想いをさせてしまっていたなんて…。
元はと言えば俺がお前とさくらの幸せを願えないような男だったから…
だからこんなにお前を苦しめ続けてしまった…」

「ちがう…
全部違うんだよ…。
俺は…皆が思ってるような人間なんかじゃない。
あなたの事を大切な家族だって言った事だって…俺はどこか兄貴と自分を比べて……
あなたを下に見ていた。
家族だったのに…家族に上も下もなかったのに…どこかで軽蔑をしていて、見下していたんだ…」

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