【完】さつきあめ〜2nd〜

「光のあれは母親の呪いのようなもんだ。
私の会社を継がないといけないとか、幼いころからあいつなりに母親の喜ぶことを第一優先に生きてきたのだろう。
あいつは本当は誰よりも自由でいたかったし、朝日のような生き方に憧れていたんだろうな。でも光はそれでいいと思う。
あいつは自分のしたい事を自由にさせてやってもいい。私の会社の事なんて、考えなくていい……」

光……。
結局俺は光の想いさえずっと知らなかった。
俺が七色グループを立ち上げて、手伝いをしてくれるようになったのは、どういう気持ちだったなんて考えてなかった。
光と綾には夜の世界ではなくて、普通に生きて欲しかったものだが、光は俺が思っているよりもずっとこの仕事が好きだったのかもしれない。

目を閉じれば、思い出す光景が、何度も何度も浮かんでは消えていく。
けれど、あの光りから目を逸らせない。
何も持たなかった俺に、神様が初めて与えてくれた宝物。

どこまでも澄み切った声で、俺を真っ直ぐに見つめた曇りのない瞳。
大切な家族だ、と嘘でも救われた言葉に、守りたいと言ってくれた幼い光。
どんなに時を重ねても、俺は小さな頃のまま囚われていて、その居心地の良い場所の中でずっとその光りを見つめていたいと本気で思った。

固く目を閉じて、ゆっくりと開く。
父親の書斎の窓からも、光りのアーチは遠くの空まで続いていた。
俺も光も、もう子供のままじゃなくていい。その光りを道しるべに歩かなくていい。
もう、自分の足で、自分の行きたい場所へ行っていい。

長き時間、大きな光りの中で、囚われ続けていたのは俺だったか、光だったか
それともどちらも、だったのだろうか。

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