【完】さつきあめ〜2nd〜

長く感じる夜があった。
華やかに見えていた世界が、影で人々の欲望で影を落とす。
飛び交う笑顔と札束の中で、手に入れたい物は人それぞれであったし、顔では笑っていても、沢山の涙の上で成り立ってる物が多すぎて
誰かの願い叶えば、誰かの願い敗れて、そんな繰り返しのような毎日で、確かな物を手に入れている人なんてきっとこれっぽっちなんだと思う。
星空はネオンの奥に隠れて姿を見せない夜。でもそれは私たちの目には見えていなくても、確かにそこにはいつでもあって、何も告げずとも見守ってくれていたのだと思う。

夕方から雲は空を隠して、冷たい雨がぱらつきだした。夕陽の見えない、夕暮れだった。

雨は嫌いじゃない。昔、雨の似合う孤独だった人に助けられた事があったから。
雨が似合うのに、パッと花開く笑顔は、一緒に5月に見た桜のようで。
上京してきて、初めて桜が北上していくのを知った。けれど、3月終わりに咲く桜も、あの頃彼女と見たまま、鮮やかなままで
わたしが産まれた時は季節外れの大雪が降ったと昔お母さんに教えられた。だから自分がずっと冬生まれだと思っていた。だから上京してきて自分の誕生日に雪ではなく桜の花吹雪が舞う事に驚いた。

雨が似合う彼女は自分が濡れるのも躊躇わずにわたしに傘を差しだしてくれるような人だった。
だから、その人の愛した人がどうしても許せなくて
でもここで出会って、彼女の愛した人を知っていく中で、彼女の事を本当に愛していた事を知って、いつしかわたしも彼を愛するようになっていった。
わたしが本当にしたかった事は復讐なんかじゃなくて、彼の気持ちを知りたかったのかもしれない。さーちゃんは愛されていた、という事実を知りたかったのかもしれない。


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