壊れそうなほど。
気持ちなんてどうにもならない。たとえ恋人がいても、他の人を好きになることはきっとある。

だからもし、ユキと出会うのが夏より前だったなら、こんなにも苦しまなかったかもしれない。

けれど……啓吾はもう、ただの恋人ではない。再来年の春には、わたしは結婚するのだ。

ユキが好き。どうしても好き。

でも、今ならまだ、引き返せる──。

「……ユキ。わたし、彼」

「聞きたくない」

彼氏と婚約してる、そう言おうとしたのに。ユキはわたしの言葉を遮った。

「別に、今すぐ彼氏と別れてとか思ってない」

「ユキ……そうじゃなくて、わたし」

Prrrrrr……Prrrrrr……

不意にケータイの着信音が鳴った。

「あ、俺だ。ごめん」

ユキはわたしの体をそっと解放した。

それをとても寂しいと感じる自分に腹が立った。
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