私たちの六年目
俺はゆっくりとした足取りで、竹下と菜穂がいる場所へと歩いた。


どれくらい菜穂に近づいたらいいのかわからなくて。


その間隔を測っていた。


「な、菜穂……。意外なところにいるんだな」


竹下の斜め後ろに立つと、俺は恐る恐る言葉を発した。


「あぁ、うん。

今週はずっとここで仕事なの。

秀哉の会社の近くだなあとは思ってたんだけど。

まさか会うとは思わなかった」


菜穂は意外にも、普通に話してくれた。


「あれー? 二人って知り合い?」


竹下が驚いたように言った。


「あぁ、大学のサークルが同じなんだ」


「へぇぇ、すごい偶然だなあ」


竹下の言う通り、すごい偶然だ。


もう会えないと覚悟を決めていたのに、またこうして会えるなんて……。


「崎田君も一緒?」


彼もここにいるのだろうか。


「あぁ、彼も担当だけど、イベント当日にしか来ないよ。

今日は私だけなの。

打合せがメインだから」


「そうか」


入社二年目だというのに、既に色んなことを任されている菜穂。


来年は、主任候補だと言われているらしい。


会社でも、菜穂は頼りにされてしまうんだな……。


「二人とも、良かったらイベントに来てね。

楽しい催しが沢山あるから」


そう話す菜穂の顔は、すっかり仕事モードだった。
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