私たちの六年目
「それじゃあ、菜穂の心はまだ……」


そう尋ねる秀哉に、私はコクンと頷いた。


「うん。私は今も、秀哉のことが好きだよ……」


往生際が悪いと言われそうだけど。


私の秀哉に対する思いは、そう簡単には消せやしない。


好きだと言われたら、なおさら……。


思いは大きくなっていく。


私の言葉を聞いた秀哉の瞳に一気に涙が溜まる。


そしてすかさず、私をぎゅっと抱きしめた。


「どうしよう。

すげー嬉しい……」


私も嬉しい……。


だって5年間の想いが、ようやく秀哉に届いたんだもの。


こんな嬉しいことってない。


だけど……。


「秀哉……。梨華とのことはどうする……?」


私の問いに、ピクッと腕が揺れる秀哉。


ただ黙って私を抱き締めるだけだ。


さっきもう手遅れだって言っていたくらいだもの。


きっと、複雑な状況になっているに違いない。


「秀哉。とりあえず、ここから出ようか。

ここね、そろそろみんな撤収するから」


私の言葉に、コクンと頷く秀哉。


私達は、ゆっくりと立ち上がった。


私はさっき落とした白い花を拾い集めて、花束を完成させた。


そんな私を見て、秀哉も花束をひとつ作っていた。


そして、二人で会場を後にした。
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