私たちの六年目
俺の言葉を聞いた梨華が、大きく目を開いた。


頭の回転の速い梨華だけど、さすがにこれには頭が真っ白になっているようだ。


「確かに俺……。

俺がお腹の子の父親になってやるから、結婚しようって言ったよ。

俺がそう言ったことで、梨華が子供を産む決心をしたのだとしたら。

婚約を破棄した俺にも責任が生じるかもしれない。

だけど、お腹の子は俺の子じゃないし。

俺とお前は性的関係が一切ないんだ。

つまり俺は、梨華に精神的ダメージを与えた張本人ってわけじゃない。

そうなると裁判所は、誰の罪が一番重いと判断するかな……?

俺は、不倫相手の男だと思うんだけど……。

違う……?」


法律のことは、よくわからないけれど。


普通に考えたら、一番悪いのはその男なんだ。


それなのにその男は……。


梨華にお金だけ渡して、何事もなかったように暮らしている。


そんなの許せるはずがない……!


俺の話を聞きながら、梨華の顔がひどく歪んでいって。


そして無言で、首を何度も横に振った。


「訴えるなんてやめてよ。

そんなことしたら、彼の立場が大変なことになる。

篤弘を巻き込みたくない……」


「は? 何言ってんだよ。

もともとはその男がいけないんだろう?

奥さんや子供がいるのに、梨華に声をかけて来たんだから。

そのせいで梨華は妊娠して。

奥さんと子供は裏切られたんだ。

その罪を償うのは当然なんじゃないのか……?」


それなのに、男の社会的立場が悪くなるだと?


いくら未練があるからって、庇う意味がわからない。
< 220 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop