私たちの六年目
「悪いけど、俺はそうするよ……。

梨華が俺と別れてくれない限り……」


「秀哉……!」


「こんなふうに脅したくないけど。

でも……。

愛してもない、愛されてもいない人との結婚なんて絶対に出来ないから……」


そう言った直後、頭の中に菜穂の笑顔が思い浮かんだ。


それだけで、なんだか目頭が熱くなった。


やっぱり結婚は好きな人とするべきだと思う。


絶対に……。


「じゃあ、どうしたらいいの?

今さら赤ちゃんとさよなら出来ないし。

自分一人じゃ育てられないし。

両親に、なんて言えばいいのよ……っ」


そう言って大粒の涙を流す梨華。


俺は、深いため息をついた。


結局はそこに行きつくんだ。


俺さえいれば、赤ちゃんとさよならしなくて済むし。


一人で育てなくてもいいし。


両親にも納得してもらえるから。


だけど……。


「ごめん、梨華……。

俺はもう、アテにはならないよ……」


残酷なことを言っているようで、胸が痛むけど。


どうしたって、梨華との結婚は不可能だから……。


俺の言葉に、絶望を感じて泣き続ける梨華。


そんな梨華を見ながら、手にグッと力を入れていたその時だった。
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