私たちの六年目



「菜穂」


病院の待合に座っていた秀哉が、私に気づいて立ち上がる。


私はすぐに秀哉の元へと駆け寄った。


午前の診察はもう終わったのか、待合には会計を待つ妊婦さんが数人残っていた。


「秀哉、梨華は……?」


ここへ来るまでの間、色んな考えが頭の中を巡っていた。


まさか最悪の事態になっているんじゃないかって。


私の問いに、険しい表情をする秀哉だったけど。


ふぅと息を吐いてから、静かに口を開いた。


「梨華は、入院することになった……」


「入院? どうして?」


「なんか……、切迫流産っていうのらしい」


「切迫流産……?」


初めて聞く言葉だけど、それって危険なんだろうか。


「流産って言われて、俺もすごく驚いたんだけど。

お腹の赤ちゃんは元気だそうだ。

梨華の身体にも問題はない。

だけど、無理は禁物らしくて。

落ち着くまで、しばらく入院だそうだ……」


「そう……」


母子共に無事なんだったら、良かった。


梨華はもう仕事を辞めているから、会社に迷惑はかからないんだし。


とにかく今は、安静にするのが一番なんだろう。
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