私たちの六年目
「つまり、梨華の言い分はこうなんだね。

秀哉がプロポーズさえしなければ、自分は赤ちゃんを産む決心はしていなかった。

だからその責任を取れって、そういうことだよね?

でも私、そんな責任は秀哉にないと思うけど」


私の言葉を聞いた梨華が、怒ったように顔を真っ赤にさせた。


「充分あるわよ!

だって秀哉があんなことを言わなければ、私はもうとっくに赤ちゃんとさよならしてた。

つわりで苦しむことも、こんなふうに入院することもなかったんだから」


あまりに予想通りの答えで、なんだかため息が漏れた。


崎田君の言う通りだった。


梨華はすっかり被害者意識になっているんだね……。


全ては、自分が招いてしまったことなのに……。


「ということは梨華、後悔してるってこと?

あの時、赤ちゃんとお別れしておけば良かったって」


「まぁ、そうね。

秀哉さえそんな申し出をしなければ、私は普通に仕事を続けていたはずだから」


「ふぅん……」


後悔しているんだ。


赤ちゃんを産む決意をした自分を……。


「ねぇ、梨華。知ってた?」


「何が?」


私は一度大きく深呼吸をすると、まっすぐに梨華を見据えた。



「中絶の手術ってね。



妊娠22週までは受けられるのよ……」
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