ビターのちスイート
『ああ、わかった。で、お前はどうするんだ?』
「とりあえず、杏奈の職場に行ってみる。事故や事件に巻き込まれてなかったら、職場には何か連絡入れてるだろうから」
『そうだな』
改めて陸斗にお礼を言い、電話を切る。
「どこにいるんだよ、杏奈……」
幸弘は小さくつぶやいて、『ショコラ・ショコラ』へ向かうために、杏奈の家を出発したのだった。
幸弘が『ショコラ・ショコラ』の店舗にたどり着いたとき、従業員口から一人の男性が顔を出した。
「あ。杏奈さんのエセ爽やか彼氏」
なんだ、そのネーミング……。幸弘は眉を顰めるが、本山は気にせず幸弘へと近づいてくる。
「どうしたんですか。こんな朝早くに」
「いや……」
言葉を濁す幸弘とは反対に、本山は饒舌に話し出す。
「杏奈さんが出勤するのはもう少し遅いですよ。あー、でも今日は杏奈さん、休んでるからここで待ってても絶対会えないですよ」
「え? 休み?」
「うわ。彼氏なのにそんなことも知らなかったんですか? じゃあきっと、あのことも知らないですよね」