ビターのちスイート
『実家とかにいるんじゃないのか?』
「……俺の荷物が、段ボールにまとめられてた。さっき電話もかけたけど、電源も入っていないらしくてつながらない」
『……ちょっと待ってろ。莉子』
電話の向こうで、陸斗が莉子を呼ぶ声が聞こえてくる。
『なあに? りっくん』
『莉子、最近高梨と会ったか?』
『杏ちゃん? ううん。忙しいみたいで直接は会ってないの。この間話した時は、バレンタインが終わったらちょっとヒマになるから連絡するねって言ってたけど。杏ちゃんがどうかした?』
『……いや、なんでもない。ユキがちょっとケンカしたみたいでさ、莉子になら何か愚痴ってるかとおもったらしいんだ』
『何も聞いてないよ? あ、でもその電話幸弘くんなら、伝えておいて。杏ちゃんと早く仲直りしてねって』
『ああわかった。……ユキ、聞こえたか?』
きっと莉子は何も知らない。いや、杏奈は莉子に心配かけたくないから、敢えて相談をしていなかったのだろう。
「ありがとう、陸斗。そうだよな、莉子ちゃんに言うわけないよな。言ったらきっと、陸斗に話がきて、俺の耳に届くはずだから」
『ユキ……』
力なく笑う幸弘の耳に、心配そうな陸斗の声が響く。
「もし杏奈から連絡あったら、俺に教えてくれ」