水の姫君と炎の皇子
雨が降っている。
『まぁ、また雨よ。結婚式の日だっていうのに、なんだか陰鬱よねぇ』
『しっ、滅多なことを言うんじゃないわよ。姫様に聞こえてるかもしれないんだから』
『あら…いけない』
『それに姫様といて、雨じゃなかった日なんてほとんど無かったじゃない』
侍女達がちらちらと私を盗み見ながら話をしている。
いつもの事だ。私は微動だにせず窓の外を見つめ続けた。
馬車にあつらえられた窓から見える空は灰色に澱んでいて、まるで私の心を映したかのようだった。
1か月前。
18歳の誕生日、私は突然政略結婚を言い渡された。
『シルヴィア。お前は1ヶ月後、ルメール王国へ嫁ぐのだ。』
父は私の誕生を祝うことも無く、淡々と言葉を続けた。
『我が国とルメール王国は遠く離れていることもあって、大した繋がりがある訳では無いが…厄介者のお前を貰い受けてくれる奇特な国などそうそう現れるまい。そなたは我が国のため、ルメール王国で精進せよ。ゆめゆめ戻ってくることなど考えるな。』
ルメール王国。話には聞いたことのある、はるか北方に位置する軍事力に優れた国だ。そこでは、大昔に竜が住んでいたという逸話があり、そこに住まう人々もまた、野蛮で横暴であると聞く。特に彼らを治める王家には竜の血が流れており、その気性は荒く血に飢えた一族だということであった。
そんな場所に私が嫁ぐ。