ロスト・ラブ
男の人が嫌いなんじゃない。……怖いんだ。
「茜ちゃん。教室戻れそう?」
「うん、大丈夫」
こうして心配してくれる胡桃でさえ、私が拒絶するようになった理由を知らない。
1年生のときに恐怖症を打ち明けてからも、胡桃はその理由を聞くこともなく付き合ってくれている。
……全て知っているのは、家族だけ。
「おい、戻ってきたぞ」
「あれ、沢野さんマスクしてね?」
「本当だ。なんでだろうな」
騒ぎになった分、教室に戻るとまたクラス中が騒めいた。
女子たちは心配そうな目を向けてくれていたけれど、男子たちは完全な興味本位なのが伝わってくる。
正直、その視線ですら気持ち悪い。
「茜」
周りに無関心を装って席へ戻ろうとしたとき、また私を呼ぶ声が聞こえた。