ロスト・ラブ
「……ありがとう」
いいの?とは聞かなかった。
なんとなく、言うべき言葉じゃないような気がしたから。
おずおずと手を伸ばして、そっとその手に触れる。
私から握るのを待ってくれているのか、颯太はじっと動こうとはしなかった。
小指で触れただけとはわけが違う。
「……っ」
ドキドキと自分の心臓の音が聞こえそうなくらい加速し始めているのがわかった。
や、やばい……かも。
それは、怖いとか、そういうのじゃなくて。
「あ、あったかいね……?」
「っ、お前なぁ。あんまそういうこと言うな」
緊張しすぎて変なことを言ってしまった私に、同じく緊張しているであろう颯太はそっぽを向いてそう言った。
ドク、ドク。
指を絡めただけで、全神経がその右手に集中する。
その手が異常に熱くて、緊張してどうにかなってしまいそうなのに、どこかそのぬくもりに安心した。