ロスト・ラブ


頭ではわかっていても、どうしても颯太の顔を見たら思い出してしまう。


颯太の体温、息遣い、……心臓の音。


それに、颯太のあんな表情を見たのは初めてだったから、余計に意識してしまって。


「どうしよう~、胡桃」

「茜ちゃんが珍しく弱気になってる……」


よしよしと、いつもは私の立場のはずなのに、胡桃に頭を撫でられる始末だった。


あー、なんで言っちゃったんだろう。

言うつもりなんてなかったのに。


それなのに、あの瞬間、颯太への想いが溢れて止められなかった。


「……柳くんめ、何やってるんだか」

「胡桃?」

「ううん、なんでもない」


何か言ったような素振りの胡桃が、ニコリと笑って「それより、」と話を逸らす。


パン、と手を叩いて、胡桃は言った。

「明日からせっかくの修学旅行なわけだし、何か行動を起こさないとね!」


そう言われて、「うっ」と声が漏れた。

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