恋かもしれない
「お店の掃除してきまーす」

美也子さんに声をかけて事務所を出る。

店全体に優しくハタキをかけてモップで床を拭いて、商品の手入れに移る。

柔らかい布で黙々とランプシェードを拭いていると、駐車場に黒っぽい車が入ってくるのが入り口横の窓から見えた。

「うわ、お客さんだ。大変、掃除道具を仕舞わなくちゃ!」

急いでモップを道具入れに仕舞って、お掃除グッズをレジ下に隠してスタンバイする。

けれど待てどもお客さんは入ってくる気配がなくて、その代わりにスーツを着た男の人が店の横を素通りして家の方へ向かっていくのが見えた。

「珍しい、セールスかな? 家の方には誰もいないけど」

あ、違う、家の中にすんなり入っていく。

ということは、そうだ。美也子さんのご主人だ!

以前駅でご挨拶したときはカジュアルスタイルで優しそうな雰囲気だったけれど、やっぱりスーツ姿だと印象が違う。

ぴしっとしていてバリバリ仕事ができる、すご腕の男って感じだった。

今日は早く帰宅されたのかな?

お客さんではなかったので、再び、商品のお手入れを再開する。

動物たちのオブジェを黙々と拭いていると、外から男性の話し声と美也子さんの笑い声が聞こえてきた。
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